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最高裁判所第二小法廷 昭和36年(オ)723号 判決

上告人

能戸進

ほか一名

右両名訴訟代理人

小野善雄

被上告人

能戸満

ほか二名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人小野善雄の上告理由について。

所論は、まず、上告人らの有する地位は期待権の排他的権利であり、これに対する第三者の侵害は不法行為を構成するから、被上告人満に対してのみならず、その余の被上告人らに対しても伐採禁止請求権を有するという。

しかし、原判決(一審判決引用、以下同じ。)の判示するところによると、被上告人満と上告人ら間に成立した本件杉立木の持分を含めて同被上告人の本件部分林契約上の権利(地位)の贈与契約については、旧国有林野部分林規則(明治三二年勅令第三六二号)第三条所定の大林区署長(営林局長)の許可を得ていず、したがつて、右贈与契約は右許可のあることを効力発生の停止条件として本件杉立木の持分を含めて部分林契約上の権利を無償譲渡することを約したものと解するのを相当とするというのである。

そして、原判決の認定事実によると、本件贈与契約は、右営林局長の許可を条件とするものであるが、これは法令上当然必要なことを約定したにとどまり、単に法定条件を付したものであり、ただこれについても民法第一二八条の類推適用が許されると解すべきところ、被上告人満において本件杉立木を伐採しようとするときには、上告人らにおいて契約上の権利に基づきその伐採禁止請求権を有するとすべきであるが、原判決の適法に認定するところによると、同被上告人において他の被上告人らと共同して右杉立木を伐採しようとする事実は認めがたいというのであるから、同被上告人に対する本訴請求は失当というのほかなく、この点の原判決の判断は正当としてこれを肯認しうる。

つぎに、上告人らは被上告人藤島に対し伐採請求権がある旨主張するが、かりに被上告人藤島による本件杉立木の伐採が上告人らの本件贈与契約上の権利を害する違法な行為であるとしても、上告人らの契約上の権利は単なる債権にすぎないから、このような債権に基づいて契約と関係のない第三者である被上告人藤島に対し所論のように立木伐採の禁止を請求することは許されないと解するのが相当であり、この点の原判決の判断は、当審も正当として是認しうる。

所論は、原判決の認定しない事実を前提として原判決を非難するか、または、独自の見解に立つてこれを非難するものであつて、採用しがたい。

よつて、民事訴訟法第四〇一条、第九五条、第八九条、第九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官奥野健一 裁判官山田作之助 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)

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